伝来の名品を食器に「見立て」る
茶の湯には「見立て」という、元の用途とは違う道具として使用する様子がしばしば見られます。湯木貞一はこの「見立て」を料理でも行いました。 特に宋(そう)赤(あか)絵(え)馬(ば)上(じょう)杯(はい)形(がた)茶碗を料理の器に使ったことは、湯木の革新的な挑戦の一つで、料理の器の可能性を押し広げます。この茶碗は、江戸時代の大坂で屈指の豪商だった鴻池(こうのいけ)屋山中家に伝わった名品で、現在の中国北部で700年以上前に焼かれました。 この器で料理が出てきたら、客は極度の緊張にさらされそうな器ですが、同時に前代未聞の贅沢な瞬間を味わうことになったと思われます。湯木の独創的な器選びによって、料亭「吉兆」の料理は他の追随を許さない唯一無二の存在となっていきました。 湯木美術館 学芸員 内田彩加

このページの写真:宗赤絵馬上杯形茶碗に盛られた蟹味噌とあられ柚(湯木美術館編『𠮷兆 湯木貞一のゆめ』朝日新聞社、2002より転載) サムネイル:宗赤絵馬上杯形茶碗