「上方ブロマイド-役者絵と美人画-」展に寄せて
江戸時代に大坂や京都といった「上方」と呼ばれる地域で生まれた浮世絵のことを上方浮世絵と呼びます。江戸で作られた浮世絵と同じように、木版画の技法で刷られますが、雰囲気や目的にちょっとした違いがありました。 江戸の浮世絵は、大衆向けにたくさん作られ、役者絵や美人画、風景画など幅広いジャンルが楽しめました。それに対して上方浮世絵は、とくに歌舞伎役者を描く「役者絵」に力を入れています。大坂や京都では歌舞伎がとても人気で、観客は贔屓の役者を応援するために、舞台姿を描いた浮世絵を手に入れることが多かったのです。いわば「お気に入り俳優のブロマイド」のような存在だったのです。 また、上方浮世絵は江戸で作られた浮世絵の制作数と比べると少なかったようですが、いろいろな技巧を用いて豪華に仕上げる作品が作られました。雲母(きら)を使ってきらめきを出したり、鮮やかな顔料で豪華に彩ったり、空摺と呼ばれる紙に凹凸を作り出す技法を用いたりして、特別感を作り出しています。そのため、江戸の浮世絵に比べると繊細で華やかな印象を与えます。

上方の絵師たちは役者の顔や雰囲気をできるだけ忠実に表そうと努め、舞台の感動をそのまま紙に写し取ろうとしました。理想化された江戸の役者絵とはまた違い、「その人らしさ」を大切にしていたとも言えます。 こうして上方浮世絵は、歌舞伎を愛する人々の思いとともに育まれ、今も「江戸とはひと味ちがう上方の魅力」を伝える貴重な作品として親しまれています。 和泉市久保惣記念美術館 学芸員 後藤健一郎 【作品キャプション】 ・団扇当世競 右一 中村歌右衛門の安倍保名 春好斎北洲 ・むめや繁松 春江斎北英